旅をしている人
田原 晋

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旅遊びの合間, 建築を見て

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旅遊びの合間・14    2015/08/29     太子町庁舎

 昔の旅仲間の建築家・坂本昭さん(設計工房CASA)からお誘いがあったので、姫路市の西側まで出掛けた。コンペで選ばれて設計、彼にとってこれまでにない大きな作品だ。当日は町民へのお披露目の会で、皆さんが大挙して訪れていた。

 建物は、行政、議会、交流の3つのゾーンからできていて、とくに町の人がどう使うのかがいちばんに考えられている。また町での位置づけも配慮されていて、それがコンペで認められたとのこと。当然といえばそうだが、そういう選ばれ方は最近のこの国では、とても珍しいことのように感じる。

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 といって、建物はとてもシンプル、配置とデザインはこれ見よがしのところがまるでなく、あっけないほどに飾りたてる要素はまるでない。芝生の中庭を中心に、3つの建物がそれを囲む。一つは大きな影(吹き抜け)を提供していて、公園というか町の広場というか、お弁当を持ってでもやって来て、時間を過ごしたくなる場所が、いくつも用意されている。その立体のバランス感覚、それをまとめるセンスの良さは、以前よく見ていた住宅と変わりがなくて、懐かしくとてもうれしい。

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 庁舎の1階は半分以上が高齢者のための場所となっている(地域包括支援センターなど)。残りが町民課など。当然だがバリアフリーであり、ひとりひとりへの配慮が感じられる。

 また中庭に面しているガラス張りの議場は、開け放つこともできて、町民との距離をなくそうという意図がはっきりしている。この国の議会としては、稀有な例だ。はるかブラジリアの議事堂を思い出した。そこは国民の場所ということがはっきりと意図されて、議員より国民が上位にある。

 

 さらに使われた材料とその施工に久しぶりにうれしくなった。3階の床は木材、土足のままで入る場所に、ちょっと贅沢な感じがする。また2階の下を望むテラスの壁のコンクリートの打ち放しは、型枠に木材を使っていて、暖かい感じがする。以前はすべてそうだったのだが、鉄板の型枠が一般的になって、質感は無くなってしまった。いまは無機質なつまり抽象的な壁が存在するだけだ。工事の手間は覚悟の上で、わざわざそうしていることが、ここではうれしい。これは、お金ではなく設計者と施工者の熱意で完成する。これ見よがしの材料や模様はまったくなく、むしろ粗末に感じる人もいるだろうが、それが与えてくれる気持ちの良さ、センスにうれしくなった。

 

 動き回っているうちに、坂本さんにも会うことができた。係員のリボンは付けていたが、設計者の表示も名札もないことに、こちらが驚いてしまった。大変でしたねと言ったら、最後に植栽を樹種から大きさまで全部選んで、植えてもらったのが大変だったと、ぼそぼそとうれしそうに話してくれた。よく付き合っていた以前とまるで変わっていない、その態度が何より、この建物の良さを語っているように思った。

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  とはいえ、帰りに見かけた旧庁舎に驚いた。それはほんとうに小さな2階建ての事務所ビル、狭くて大変だったのだろうが、ともかくこの大きさだったのだ。私たちは無意識に現在の常識に合わせて、機能や規模を考えてしまう。

 

 それにしても、建築を語ることはむつかしい。それぞれの人は自分に関係のある分野からそれを語るけれど、それはある視点からの見方で、立場が違うとまるで違う意見になってしまう。最終的には、インパクトのある形態が残って名建築という評価になるのだが、そこに至るまでいろんな見方それぞれの評価がなされることになる。使いやすい設計、これまでにない使い方が提案されていること、さらにそれを気持ちよく、また長持ちさせる配慮が込められていること、そしてデザインが気持ちよく、またこれまでになかった形態が込められていることなど、評価の物差しを上げるだけでもキリがない。もちろん建設のまた維持のための費用も追求される。

 素人のこちらは、このところそこにいる気持ちの良さ、使う当事者の方たちの満足度を推しはかっている。

 

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