旅をしている人
田原 晋

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旅の記録, 201407フランス

 

3)ルーヴル・ランス Louvre Lens

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 リールLille郊外の小さな町ランスLens、ここは以前炭鉱があった町でボタ山が見える。その町おこしのために、パリのルーヴル美術館が分館を開設した。設計コンペの結果、妹島和世・西沢立衛のユニットSANAAが選ばれた。2012年にオープン。

 駅から遊歩道を歩いて、やがて草原のような敷地に入って、遠くに写真で見た低い箱が並んでいるのが見えてくる。建物は3つの箱、中央はチケット売り場などサービス棟でここはガラス張り。左右の展示棟はステンレスのような金属の外装材、化粧によって周囲の自然をピンボケにして映し出している。そのため、近づくにつれ映し出している自然が目に入って、そのぶん建物が消えて、夢の世界にいるような感じがする。

 チケットを求め、荷物を預け、カメラだけ持って展示室に入る。柱のない大きい白い部屋、そこに作品が並べられている。よく見ると、床面が自然の大地のように、なだらかにうねっている。壁面も微妙にカーブしていて、自然を自然のままに仕切るとこうなるのだろうという気がする。模型をいくつも作って検討していたSANAAの感性が、コンピュータの活用で自在に表現できるようになった結果の形と言える建築が重厚長大の技術から脱した形が、ここに見られるように思う。今回は周囲を写しこむ外装材の採用で、自分の大きさを消してしまうことに成功されている。

 

 

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 そこに話題を呼び、すっかり有名になっている展示がある。地域に関係なく、ただ年代だけを物差しにして作品が並べている。エジプト、クレタ、ギリシャが隔てなく並んでいくのは、とても気持ちがいい。いろんな人種が交じり合っている現代の都市というか、マーラーの4番の天上の生活のようだ。それは境界のあいまいなこの空間にぴったりの展示の方法だと思った。年に5分の1ずつ変えて5年ですべて変わると言う。

 とはいえ結局のところ、エジプト~メソポタニア~ギリシャ~ローマという西欧文化誕生の歴史をなどっただけ、中国はもちろんガンダーラもない。それを人類の美術を平等に扱ったと言うのは、言い過ぎだろう。

 と同時に、ここはルーブル美術館だ、西欧文化の中心だ。これ以上の選択なんて不可能だろう。これだけでも、よくぞやったと考えるべきだろう。と思いながら、ここにイランや中国、はるか極東の視点を思ったりした。

 

 世界はまだまだ遠い。パリのアフリカやアジアの美術を展示した、ケ・ブランリー美術館では、何の疑問も感じないようにプリミティブという単語を使っていた。今も、西欧がいちばん進んでいて、他は未開の地域なのだという無意識を感じてしまった。

食堂で一休みする。ショップをのぞいたりして、約3時間、帰りを気にしないで見ることができたのが、うれしかった。日本の方には会わなかった。

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・外壁に周囲の自然が夢の世界のように写りこんでいる。

 

・特別展示・戦争の惨禍 1800~2014年

 もうひとつの展示室は、第1次世界大戦100年でもあるのだろうが、その特別展。入口に、大きな白馬のナポレオン像(フランスの人にとって最も有名な絵だろう)。その背後にゴヤのその現実を描いた版画、この戦争以来、普通の人が参加するようになって、戦死者が増大した。銃殺の巨大なスケッチ(ゴヤのコピー)などが、アフリカや新大陸の征服戦争に続いてアメリカの南北戦争へ。続いていく。

 表現も絵画、版画から、写真へ、ロバートキャパ、LIFEの写真家たち。そして動画、第2次世界大戦は、原発の空中からの映像とアウシュビッツの映像が特別のコーナーとして並んでいた。そして、ベトナムのこちらに泣きながら逃げてくる裸の少女は、今もシリアやガザで続いている。

 

 ヨーロッパの人が、戦争をどう理解しているかが見えたように思えたし、それは第2次大戦で戦争は終わったと思ってしまう私たちの感覚とは、やはり違うようだ。今も、懲りることなく戦争はまだ続いている。そう考えることは、とても大切なことだろう。

 この展覧会、そっくり借り受けて、広島の現代美術館で開催して欲しい~。いま問題になっている、隣国との関係についてもまた違う視点から考えることになるように思う。

 

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