旅をしている人
田原 晋

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中国・湖南省の旅0807~08

中国・湖南省20080727~0803
旅で思ったこと


1. 宋卓然さんのこと
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 湖南省人民対外友好協会の宋です。大柄のお嬢さんが日本語で挨拶する。ほとんどの人はもう彼女をよく知っている、まだ独身だった頃からの知り合いだからと再会を楽しみにしていた人も少なくない。だから2歳のお嬢さんの母であること、夫は外科医でお給料は4倍もあること、長沙市のマンションには自家用車もあることなど、生活がすぐにこちらも知ることになった。今回の仕事の間、お母さんが預かってくれているとのこと。なんだ、貧しい子どもたちの支援を仕事にしているけれど、階層上位の人ではないか、最初はそう思った。
 でも実際に通訳の仕事を見るにつれ、それが生徒の立場にたっての理解を考えていることや、先生との話し合いでも、単なる言葉の通訳に終わっていないことはすぐにわかる。こちらは出席しない学校や県の人民友好協会との話し合いでも、優秀な子に援助を集中させようという先方の要望に、それは変ではないかなど自分の考えを明確にしながら通訳の作業をすすめてくれると、委員の皆さんはすっかり感心していた。
 確かにこの国は階層社会で漢民族中心になっていて、それは否定のしようもない。でも彼女のようにその接点の上部側に立つ者が、下部の立場や全体のあるべき方向を考えることで、社会はいい方向に動いていく。という以上に、その周囲のみんなが元気になり未来を信じる気分になる。それしか方法はないと言える。
   *これはどこの国でも同じことだ。
おそらくこれは彼女が、一面では女性という格差を受けやすい立場であることが、そのような多面的な思考を自然に身につけるようになったのではないか。現実にいまも専業主婦になることを要望されている。彼女はもっと違う人生を夢見ているようだが、そんなに何度も変更はできない。いまの生き方をともかく継続することがいいのではないか、その中でより責任のある地位について欲しい、何も知らない当方にはそう思えたりする。

 ただ最後の学校訪問が終わった8月1日の昼食後、彼女にはひと足先に帰ってもらえばよかったと、今になって大反省している。こちらは新入りだが最高齢からのいえ働く連れ合いがいた者のお願いとすれば、説得力を持っただろう。そうすれば1日半の時間ができ宋さんにはもちろん、長い目で見れば関西日中にとっても、また優秀な部下を持つ張さんにとっても、それはいいことに違いないのだから。
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   ・会報が出ましたので、遅ればせながらは掲載しました。

2.学校と子どもたち

 今回の旅は、子どもたちとの交流があった。そこでやはり感じたことをまとめてみることにする。といってあくまでこちらの見た印象、つまり先進国のリタイアした老人の見方だから、現在の彼らがどう思っているかはまるで関係がない。彼らが幸せであるかとか、それで世界がどう変化するかなども、やはり他国の人間の勝手な感想と考える方が正しいだろう。
 ともかく大変な競争社会にさらされている。永順県の人民政府の正面には、その地のエリート校・永順一中の入学者氏名や進学者の成績が大きく掲示されて沢山の人がそれを見ている。それは小さな村の学校でも同じような成績の掲示があったから、それを当然と思っている社会だ。学歴はまだ収入に直結しているから、階層の上位をねらうには避けることのできない競争だ。これはオリンピックの開催で知られることになった、その選手の育成の方法が大変な競争のもとにおかれているのと、まったく同じだろう。つまりこの国のあらゆる分野で、過酷な競争が展開されている。開会式で話題なった歌を歌う真似だけした可愛い女の子も、その後ろを歩いていた少数民族の代表とされた美しい女性たちも、モデルという競争を勝ち抜いた勝者の姿だ。それを演出した監督がそのことを、なんら悪びれることなく当然のことだと言ったのも、その社会にいればそれ以外の発想はあり得ないことなのだろう。
 こちらは会っていないが(幹事の皆さんは、援助をしている子にできるだけ会おうと声をかけ集まってもらっていた)、永順一中の女の子が大変に明晰かつ前向きで皆さんそれは感心していた。将来は政治か法曹か医者か迷っているとのことらしいが、これは日本の優秀な子と変わらない。世界的にそういう子どもたちが賞賛され前向きに育っていくのだろう。飛び級も小中学校で行われている。
だがそういう一面があるということは、その裏面も存在する。お兄さんが卒業後、家にひきこもっていると言った子もいたし、面談をしながら目を合わせようとしない覇気がまるで感じられない子も何人かいたそうだ。一方、進学を願っていた子がそれをあきらめ、出稼ぎに広州に行ってしまい会うことができなかったケースもある。一人っ子政策で子どもの数は少ない。当然パラサイトする子どもたちはいるだろうし、また日本以上のスピードで高齢化社会を迎えようとしている。会としては、せめて優秀な子に援助を集中しないで、底辺の学べない子のために使ってもらうようにお願いしたとのことで、そういう考えをうれしく思った。

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・同行の南島さんが撮ってくれていました。

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  こちらは2回だけだが子どもたちに直接接した感想を言えば、その背筋をぴんとのばして椅子にすわりまっすぐにこちらを見てくれる子どもたちに感心したし、大きい白い紙とクレヨンに目を輝かしてくれた。「何でもいい、自由に書いてください」でも「お隣とはなるべく違うものを描いてください」というお願いは残念ながら裏切られてしまった。最初はいろいろあったと確認したのだが、こちらが自分の描くことに気をとられている間に、「私がいてお家があってお花が咲き草があって川も流れている、鳥が飛んでいて太陽が輝いています」という絵にシフトしていた。うまい子の真似をしたのか、描くうちにそれがやはりいちばんいいと思ったのか、どこか似たような絵になってしまった。最後に一人ずつ自分の絵を説明してもらい、それは大きい声ではっきりと言う子が多いのに感心したのだが、ちょっと残念な気もした。
でも今になって、子どもたちとはそういうものだろう、どこか大人たちのというか、時代の期待に沿おうとする。それは何時の時代もどこの国でも変わらない。そこからどれだけ自由に羽ばたかすかが、大人たちの態度だし責任なのだろう。かの国では競争に耐えることを指導するし、こちらの国は自分らしさを強調しているように思えて、どちらにも行き過ぎを感じてしまう。

3.料理のこと
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 今回は、これまでのどの旅よりおいしいものを連日いただくことができた。それはまったく飽きることはなかったしお腹を悪くすることもなかった、ほんとうに感激的だった。当然だが、ひとり旅は食事がどうしても粗末になる。たまにフンパツしたつもりでも一人だと取る種類が限られるし、何人かだと別のものを取ってシェアすることができるが、それもできない。またこれまでの何度かのツアーでは誰でもが食べられるようにという大きなお世話と、味より金額が優先されて、結局毎日同じメニューですぐに飽きてしまう。道端の屋台の方がはるかにおいしいと思ったりした。
 ところが今回はそういう力がいっさいない、しかも人数がいるほど料理の種類が増えていく中国料理だ。さらに受け入れ先がはっきりしたボランテァの集団。省や県の人民対外友好協会や場合には学校ががそれぞれに、食事をご招待してくださることもある。それは村で唯一のレストランであったり、その地方のご馳走といわれるものがそのまま出てくる。味に関係のない調度や清潔さに投資する風習はまるでなく、ただそれは地域によって微妙に変化して、組み合わせはまるでちがうハーモニーを見せてくれる。あ、メニューをメモし写真をきちんと撮っておけばよかったと後になって思うのだが、そのときはただ感激してただただ箸をいそがしく動かしていた。

 すでにその組み合わせを思い出すことはできず、ただただこんなものがあったと思い出すものを、順不同に書き出してみることにする。
 豚の燻製その塩味がとてもおいしく買って帰ろうと思ったが、その面構えにやはり遠慮してしまった。鳥料理はスープに揚げ物煮物といつも食卓の主役だったし、魚はいずれも淡水魚だが小魚のフライから白身のあんかけ、鰻も鯰も出てきた。泥鰌もいた。スッポンもいた。お豆腐も煮たもの揚げたものと定番のひとつ、ちょっと発酵させたり(チリトテチンだ)血をふくませたという名物料理もあった。野菜はもうそのままでで日本では信じられないほどおいしいのだが、トマトにオムレツをからめたもの、お砂糖をかけただという簡単なもの。きゅうりににが瓜(ゴーヤ)や冬瓜の揚げ物にあんかけ、南瓜の煮つけ、そのお花、これはきれい、スープにさっとつけて食べる。モロヘイヤみたいな空芯菜にいんげんのようなお豆もいろいろ、茸もまたそれぞれに違うものが出てきたし、ナッツなど木の実は何時も2~3皿。餅も餡入りやそうでないもの、揚げたよもぎ餅も出てきて大好評だった。それに焼きそば汁そばが2~3種、白いご飯におかゆも焼き飯もあった。

 ほとんど食べるために生きているような当方には、今度も機会があればぜひ行こう、これはお金にも時間にも代えられない幸せだと、本来の目的すらどこへやら、感謝感動したのでございます。ほんとうに生きていてよかった。                              
          以上

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