旅をしている人
田原 晋

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旅遊びの合間

 友人に紹介されたのですが、ちょっと面白いテレビの旅番組があります。「世界街歩き」金曜22時45分~23時30分NHK総合。4月からの新番組らしいがこちらの見たのは、ドナウ川をゆくというシリーズのリンツとウィーンの2回。
「まるで歩くような新感覚紀行」という副題のとおり、歩き回る旅行者の目になって映像が動いていく。旅行者は登場せず、ただ見たものについて語るだけ。興味をひくものがあると、カメラはそこに立ち止まり近づく。旅行者は、何だろうとつぶやきそれを解説というか確認したりする。時に相手に声をかけ感想を言ったり、場合によっては付いて行ったりする。決められたストーリィはなく、偶然の出来事を大切にしながら歩いていく。時にこれではいけないと観光地に行ったり、同じ場所に帰ったりするけれど、また横道に入ってしまう。そして朝から夕方までの一日が過ぎていく。もし明日同じことをやれば、まるで違う行動になるに違いない。何を見ろとか解説をするという押し付けはまったくなく、これまでにない旅の番組だとすっかりうれしくなりました。

 それにしても、こちらの旅とよく似ている。こちらはすぐにカフェに入ったり公園のベンチに座ったりと、はるかにのろのろしていますが、過ごし方はほとんど同じ、夕方になって行こうと思っていた場所を逃していることに気付いたりします。
 でも、これは予定を決めていない旅だからできることだと、あらためて思いました。ツアーではもちろんこんなことは不可能でしょうが、自分で決めた旅行でもあらかじめ泊まるホテルを決めてしまっていると、このような勝手気ままにはなりません。その町で過ごす日数が決まっていると、行動がおのずと決まってしまい、行けなかったからもう一日滞在しようとならないからです。
 もうひとつ言葉の問題。確かに番組では相手といろいろ話をしています、当然こちらには不可能です。(考えてみると、カメラの人が、どこの国の人か年令も性別もわからない。日本語は番組制作時に入れているに違いないのですから、でもそんなことはどうでもよくなる)例えば中庭やお店をのぞき込むことは、こちらにもできます。悪意がないこと、その美しさとか見事さに興味を抱いたことや感心したことは、言葉ではなくてこちらの表情や動作で伝えることができます。番組で入り込んだ古本屋さんが元はワイン庫であったとか、その住まいの歴史を正しく理解できないにしても、その蔵書の量や広さに感激すること、中庭のお手入れの見事さにただ感動し敬服していることは伝えることができます。同じような興味を持てば、煙突掃除のおじさんの後をついて屋上に上ることも可能ではないか、半分くらいは同じような行動はできるだろうと思います。言葉より、そこに興味をもつこと、感激することが必要ですが、それは喋れなくても可能です。
 何より相手がとてもやさしい。日本の田舎のように、旅行者をあたたかく迎えてもらえる。敷地の中や建物に迷い込んでも、こちらが感動したこと悪意がないことを伝えることさえできれば、許してもらえる。人間同士という信頼感があるし、こちらが東アジアのモンゴロイドということもそれを助けてくれるように思います。

 ともかく、この番組をご覧いただいて、なるほどそういうものかと、勝手気ままな旅(旅遊び)の良さを感じてもらい、ツアーしかできないと思い込んでいらっしゃる方たちにも、もう一度トライする気持ちになっていただきたいものです。
 
 あ、もうひとつ、この番組では時々歩いた道筋が地図に表示されます。つまり同じ場所を歩くことができます。旅番組では初めてのレシピ付きです。これまでの旅番組はすごいだろうと威張るだけで、同じ旅行をどうぞという姿勢がなかった。その点でも、この番組は特別なのです。でもレシピのない料理番組は考えられないのだから、これまでがおかしいのですよね。

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