本の旅・1968 小熊英二 新曜社
2010年3月28日
あれだけ本を出していた小熊さんがぱったり本屋さんに登場しなくなって、ウツになられたのではないかと心配していたら、なんとこれまで以上に分厚い上下2巻の「1968」を出されて、このためだったのかと納得したのでした。といって、これだけになると、買うのも(各6,800円)読むのも大変。ともかく旅の前になんとか読み終えたいと、最後はもう必死で読んだのであります。
で感想としては、フームさすがというところ。確かにこの時代のことを総合的に書いたものは、これまでになかった。その源流から各大学の闘争が発生順にまとめられ、そうだったのかと、こちらは何もわかっていなかったと思い知る。何より当時の朝日ジャーナルなどの記事などから、深く考えられた行動と思っていたのだが、そうでもなかったこと。多くの人が参加した運動だから、それはむしろ当然のことなのだと今になって思う。やはり東大でもあったというイメージに踊らされていたということになる。
その熱気も、「連合赤軍」の事件で急速に消えてしまうのだが、そのリンチという陰惨な行為がなぜ生まれたか冷静に分析され、納得させてくれる。また「ベ平連」という活動が、戦略的にも戦術的にもいかに稀有で見事な活動であったのかということが、ここだけは臨場感あふれる筆致で紹介されている。
もうひとつこのうねりから生まれ、フェミニズムという大きな実りを得た「リブ」の運動も当然のこととして触れられているが、それとは直接に関係のない活動も様々にあっただけに、ここは逆に田中美津という個人の活動に絞って語られている。これは異論が出ることは承知のしかしよく考えられたまとめ方だろう。
結論として、後進国であった社会が高度成長という先進国の仲間入りをした、そこに起こった生活や社会のシステムや人の考え方(モラル)の変化が生み出したキシミが起こしたもの、時代の産物であったということになる(なんて一言にするのは問題で、ここは読んでいただかねばということになるのですが)。
あ、それから読みながら、沢山の登場人物が今どのような生活をなさっているのか、下世話な興味を抱いたのですが、それも最後に、それぞれの方が今それをどう思っているかの発言がまとめてある。そこに紹介されている当時の肩書と現職を見ながら、その方の人生がどのようなものであったか類推することもできました。
以上の分析を見事だと納得するのだが、ひと回り上の世代である当方が思ったことは、ちょっと違う。熱気のように盛り上がった社会活動を、収束させることはほとんど不可能なほどむつかしいことだ。いや主張してきたことを変更することさえ、人間の組織はできないでいる。
その例を太平洋戦争で思い知っている筈なのにわずか30年後の「1968」ですら、それは参考にされなかった。つい最近は、密約への対応すら実に下手な方策しか取れなかった。といってこれは私たち日本だけのものではなく、ナポレオンもヒットラーも失敗したし、ベトナムでの教訓をアメリカも生かしていない。
ということは、地球の未来を考えて経済成長を止めることは、やはり不可能なことかもしれない。人間はダメだ危険だと言いながら、滅んで行く運命にあるのだろうか。
*あ、これで明日、出発することができます。バイバイ。