旅をしている人
田原 晋

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本の旅

本の旅・月刊誌・大沢真幸 THINKING「0」
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 雑誌が売れていないそうだ。とくに文藝春秋とか世界といった総合雑誌がひどいらしい。これではいかんといろんな試みがされているが、意図はわかるがいまひとつ満足できなかった。といってこちらは決して熱心な読者ではない。ただ日々起こっていることをテレビや新聞のニュースだけでなく、その原因や理由まで、もう少しだけ理屈で知りたいと思うだけ。ぶっちゃけてしまえば、すぐ感情的になったりイメージで断定する、マスコミ報道が嫌いなだけだ。発行する側から見れば、こちらの年令や好みはすでに対象の層から外れているのだから、当然のことだと言えるのだが~。
ところがつい先日、これこそが新しいタイプの雑誌だと思うものに出会った。創刊からすでに3ヶ月が過ぎているが、ご報告を兼ねてPRさせていただく。

 雑誌というよりブックレットという感じだが、きちんと月に一度発行されている。名前は、大沢真幸 THINKING「0」。創刊はこの4月からで、すでに3号が出ている。写真のように、装丁はとてもおしゃれだ。またページを開いて、文字の大きさやレイアウト、キャプションの入れ方(ページごとに要約が2行で示されている)まで、行き届いてすっかり感心してしまった。
 内容は、大沢真幸さんの個人編集で、月ごとに現代社会を考える上で鍵となるテーマを決め、それにふさわしい方との対談と、それで触発されたことを論文としてまとめられる。あとは必要な資料だけという、シンプルな構成。毎月10日に発行されていて、定価は1,000円。

 創刊号は「連帯のあたらしいかたち」。対談のゲストは医師の中村哲さん、アフガニスタンでの医療から井戸掘りや用水路の建設までする、ペシャワール会の現地代表。日本人の彼がなぜ現地にいることが必要であったかが話される。それが論文では、子なるイエス・キリストにむすびつけられ、父と子と聖霊という三位一体に結びつけられる。個人的にもその意味をはじめて知ることができて満足したのだが、世界での連帯の仕方への新しい提案になっている。
 2号は「民主党よ、政権交代に託した夢を手放すな」。対談は、まず政治学の姜尚中さんと、政党や選挙の意味、政治と官僚制の違い、天皇制、憲法9条と国際貢献などの本質が語られて、政権交代の意義が語られる。もう一人、教え子で民主党議員の政策秘書になった小木郁夫さんと、二大政党制の意義、郵政改革が支持された理由、社会を変えるには国家権力のあり方の変更が不可欠など、政治とは何かが話される。それを受けての論文では、政権交代は失敗する可能性が選ばれたのではないか。だが郵政選挙のように失敗と断罪されないために、やらなければならないこと、その可能性が語られている。
 この編集は鳩山政権時になされていて、その後の瓦解と管政権の誕生は触れていない。しかしそれを経た現在に見ても、その指摘は交代を予測したと思えるほどに有効だ。
 3号は「民主革命としての裁判員制度」。対談は、制度を推進し導入した中心的な弁護士、四宮啓さん。制度が意味するもの、その成果、可能性など。まるで気付かなかった意義が語られる。もう一人、河野義行さん、松本サリン事件の第1通報者で犯人扱いされた方。その徹底して当たり前の考え方に、驚くとともに魅了されてしまう。そして論文は、小説「贖罪」を紹介しながら、犯罪をどう理解するのがあるべき姿であるかという基本のところから話しをすすめて、この制度の意味がもう一度まとめられると共に、具体的な改正試案が提示されている。
 次号の4号(7月10日発売)は、「1Q84」と1980年代。対談者は辻井喬さんと、予告されている。


  ところでこの本は、ひさしぶりに目的なく本屋さんを訪ねゆっくりと本棚を眺めていて気付いた。新しい作者とか作品は、なぜかそういう無心の時に見つかる。それは友人から教えられたり、批評を読んで知るより、はるかにうれしい。
それこそが「本屋の旅」の楽しさだと思う。
ということは、i-padなどの電子化はとても魅力的だが、それが一般的になれば、こういう「本屋さんを巡る幸せ」がなくなるのではないかと思ったりする。

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