旅をしている人
田原 晋

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本の旅

 前回に、その間に読んだ本では、大沢真幸さんの雑誌4号「もうひとつの1Q84」、佐野章二「ビッグイシューの挑戦」、それぞれに面白かったけれど~。と書いたけれど、それで済ますのはちょっと申し訳ないので、少し。

 大沢さんは村上春樹を社会学的に読んでいる。理想を追い求めた時代の破綻が見えた70年代の初めに村上春樹は登場した。そして現実を秩序づけるのは情報社会、消費社会と呼ばれる虚構の時代へと移っていく。そのピークが1984年頃と言う訳だ。その視点で作品を読むのはとても面白い。
 ところでこちらは「1Q84」を読んでいない(読んだのは、ノルウェーの森まで、あまり読む気がしなくなった)。でも「世界の終りとハードボイルド~」を読んでいたために、あまり不都合なく?理解できた。オウム真理教や世界に広がる原理主義の現実を重ねて、この本を読んでしまう私たちに村上春樹は回答を与えているのか。大沢さんの理解はそこに及んでいて、彼の言う現在「不可能性の時代」に対応していると言う。その論文に続く、辻井喬さんとの対談や参考資料(あらすじまである)も充実している。
*「1Q84」を読まないで、村上春樹について理解したい方にこれほどいい冊子はない。

 佐野章二「ビッグイシューの挑戦」はホームレスの人に売ってもらって収入を得てもらうという雑誌だが、もう7年も続いている。その顛末をまとめたもの。その努力に感心するが、何よりこの雑誌を買っていたのが若い女性であったことに驚いた。そこに「不可能性の時代」の夢をまたみることができるようだ。

 ともかく生きて世界を見ることができるのは、何にも変えられない幸せだ。

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