モロッコの旅で思ったこと・2 タハラがサハラに
2012年1月27日
2. Tahara in Sahara
*朝日を受けて輝く砂山、 マイコさんの宿のカード
モロッコの南の国境近くサハラ砂漠を望む地域にまで行ってきた。以前はエルフードという町から砂漠まで4輪駆動車で走らないと行けなかったらしいが、すぐ目の前のメルズーガ村まで舗装道路がのびて、散歩がてら砂漠に入ることができる場所まで簡単に行けるようになっている。村は、今や宿やバス停やお店ができるなど急激に大きくなっている。
といってこちらに泊まれる宿があるのか心配していたのだが、なんと日本人経営の宿があるとのことで、そこを訪ねることにした。マイコさん経営、というと当然40~50代の方と思っていたら、なんと20代の若奥さまででビックリ。なにより言葉が通じるのはありがたく、村を案内してもらい、さらにベルベル人のテントに1泊するらくだツアーまで参加することができた。
砂漠は結構水を含んでいて、パイプを差し込むと水を取り出すことができる。その水路に沿って、ナツメヤシが植えられて砂漠との境界となり、内側に畑が作られて麦や野菜が栽培されている。イランでもそうだったが緑があるということは人の手が入っているということで、自然ではない。こういう風景に出会うと、自然の強さ美しさと人間のすばらしさの両方を感じる。それだけで来た甲斐があったとうれしくなる。
その前、散歩がてら砂漠の中にひとりで入ってみた。砂山をいくつか越えると、もう周囲は砂と空だけの世界。砂山の重なりははるか遠くにまで続いているのだが、なぜか絵に描いたようでその広さに感動はしない。すでにどこかで見たような気になってしまう。こちらの想像力の貧困のためなのだろうか。それより目の前の風紋や足跡、人間のだけでなく小動物のものもある、さらには砂が意外に冷たいことに驚いた。おそらく水を含んでいるためにそうであったのだろうが、ふと思いついてオシッコを試みた。それは少しも広がらずに穴の中に落ちていくように吸い込まれていった。こちらが飛び込んでも、そのように落ちていくのではないかちょっと恐怖をおぼえるほど見事な消え方だ。足跡がそこで消えている写真、それが風によってすぐに見えなくなってしまう動画を思ったりした。音もまったくなく、あ、ここは別世界なのだと、あらためてよくぞまぁここまで来たものだと思った。
小さな三脚を取り出してオートシャッターで写真撮影をした。マフラーは出かける前に宿のお兄さんに巻いてもらった、後ろで結んであって簡単にほどけたりしないし、一方を砂よけに顔に巻いて眼だけ出すようにもできる。何度も教えてもらったが、自分ではうまく巻けないし、もうそれも忘れてしまった。だから、これはほんとうに記念写真だ。
翌日、今度はらくだに乗ってテントに1泊して朝日を見るツアーに行くことにした。16時にらくだを連れたベルベル人の青年・バラサ君25才がやって来る。骨格がしっかりした大きな目、その白い肌に黒いひげが目立っている。言われるまま坐ったらくだの背にまたがる、瞬間すっくと立ち上がって2mくらいの高さすべてを見下ろす視点になってしまう。ちょっと不安だが、なんとか歩く動きに身をゆだねる。一人だけのぜいたくなツアーだ。すぐに砂漠に入り、前を歩く彼の後ろについてらくだは、ゆっくりとでもしっかりと進んで行く。何度か止まってお尻の毛布を直してもらう、こちらの乗り方が悪いようだ。大股の姿勢、降りると足がふらふらして立っておれないほどだ。
やがて村が見えなくなり、日が沈んでいく。砂が色を増して赤く輝いてくる。こちらの影が砂の上にびっくりするほどに長く伸びる。らくだの足が針金のようにだ。写真を撮りたいが、らくだの上ではなかなかうまくいかない。一人はこういう時に不便だが仕方がない。
ほとんど暗くなったところでテントがいくつか見える場所に到着、彼の家族が住んでいるとのこと。砂山に囲まれた窪地、いい場所を探すものだと感心する。そのはずれのひとつが私たちの今晩の宿だ。明かりはローソク。しばらくして彼が食事を運んできてくれた。お茶とパンと羊のタンジェ、熱いのがうれしい。夜は冷えそうだ、もうすることはない、というより何もできない。カイロを貼り毛布を4枚かけ20:00就寝。静かだ、というより無音。
目覚め、真っ暗、まだ5:30。6:30起床、砂山でオシッコ。朝日の方向に高みを目指して歩く、どこまで行っても同じだが、視界が広がった所で腰を下ろす。7:15日の出、みるみる明るくなり、くっきりと長い影。テントに帰ると、もう出発7:30。途中で二度止めてもらって、すわり直す。それでも少しは慣れてきて、身体を前後に動かして大きな獣にまたがるちょっとエッチな感触を味わったりした。
やがて村が見えてきて、9:00宿に帰着した。もう二度と来ることないだろう。それにしても「いい冥土の土産ができたものだ」とこれを書きながらそう思いついた自分に自分で驚いている。
*右の写真・宿の屋上から砂漠を見る。そこへ一人で出かけて左の写真を撮りました。