旅をしている人
田原 晋

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201111~12 地中海5・モロッコ

3. モロッコのすばらしい建築彫刻
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 モロッコを訪ねていて、その建築彫刻のすばらしさに感心した。それは壁から天井ときには床まで、覆い尽くしている。その場所の圧倒される感覚だけでなく、紋様のひとつひとつは繊細で軽快で美しい。これまで見たトルコやイランはたまたインドのそれらと比べても、そのスケールや覆い尽くす徹底さは及ばないかもしれないが、繊細な美しさははるかにこちらが進んでいるのではないか、そんな思いがした。
そして1年前に久しぶりに訪れたスペインのアンダルシア、そのイスラム建築の見事さに感動したことを思い出した。その紋様を生み、送り出した母国なのだから当然だろうと、ここは突然イスラムびいきになって見ていった。マラケシュ、フェズ、メクネス、偶然だがその順序も良かったと思う。ほんとうを言えば、もう一度マラケシュの史跡地区に帰ることができれば、もっと良かったけれど。
紋様はますます繊細で、石材土レンガ漆喰木材という材料の違いを越えるというか、それを組み合わせながら紋様はひとつにつながって続いている。建物のつながりや空間の変化では、アンダルシアに及ぶべくもないが、ひとつの空間でのまとまりには感心する。なによりほとんど人がいなくて、その場所を一人占めできるのだから、これ以上の幸せはないだろう。
モスクには入れないのは残念だが、メドレッサ(神学校)や廟(墓所)は入ることができる。とくに廟は、その時代の技術の粋を集めるものだから、ほんとうに見事なものだった。また出発前に建築家の澤良雄さんが、壁泉があることを教えてくださった。フェズやメクネスのメディナのあちこちにあって、今でも水道として利用されている場所もあった。モザイクを張りつめたものだけでなく、シャウエンでは青く塗られたものもあって楽しかった。

さて、そのように感心しながら見て帰ったのだが、写真を整理する段になって、その年代をチェックしてこちらのカン違いに気付いた。こちらの見たモロッコの建築は、いちばん古いものでも14世紀、つまりスペインのレコンキスタ(キリスト教による国土回復運動、1248一応の達成、1492グラナダ王国の崩壊)の後だ。沢山のアラブの職人がヨーロッパから逃れてきたが、彼らを送り出した王国はすでになく、その後生まれた王朝で彼らは持ち帰った技術で新しい建築を作り上げた。
風土の違いもあるので空間はまるで違うものになったが、そこに加えられた紋様はより繊細で濃密になった。それははるかアンダルシアの土地を夢想するものであったのだろうか。彼らの心の中を想像すると胸が熱くなる。

またこれと似たものが、スペインにもある。マドリッドの南、トレドの町にユダヤの建築のアラブ模様もまたキリスト教の世界で作られている(1085キリスト教再征服の後、1492ユダヤイスラムの追放まで)。その細い曲線を多用した紋様、なにより天井の仕上げの方法が共通していることには驚くほどだ。この比較は、きちんとしなければ勝手なことは言えないのだが~。
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*トレドのユダヤ教会

渡来した技術によると言えば、私たちの国にある陶磁器、有田や古伊万里にある抒情性も、これと似たものではないか、そんな想像までさせてくれた。文化は重層するほど抒情が付加されて美しくなる。混交するほどそれは純粋になる?


専門家から見ればとんでもない見方だろうが、そんな発想をさせてくれるのも旅の楽しさだろう。できればもう一度、今度はしっかり勉強してから訪ねたいものだ。アンダルシアからモロッコ、そしてトレドというコースになるのだが、はて。

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