旅をしている人
田原 晋

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フィリピン ルソン島北部の旅 201202

20120214~0227Philippines[Northan Luzon~Manila]
フィリピン[ルソン島北部~マニラ]の旅で思ったこと

1・世界遺産は危機遺産
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 フィリピンのライステラスは世界遺産であると同時に危機遺産にもなっている。想像はしていたが行ってみて、やっぱりと思ってしまった。観光客は欧米の人が多い、米作が一般的なアジアの人にとって棚田は、そう珍しいことではない。大きさや高さの違いはあっても耕地を水平にして水をはる、つまり水田にするためには棚田は避けられない。自然の曲面をそのまま畑にして種をまく、麦や牧草の民には、信じられない労力のたまものと映っているのだろう。それはライステラスという言い方にも現れている。日本語であれば、米、稲、田、畑などの言葉があって、水田、棚田などと呼ぶのだが、そのように分類のできる単語がないというか、その必要がない文化から生まれた言い回しだろう。
 ともかくマニラから毎日2~3台のバスが出て、その半分が欧米からの観光客だ。世界遺産と言う言葉につられて来る当方のような日本や中国からの人もいるけれど、その数はそんなに多くない。ツアーにも会わなかった。またこの地域は太平洋戦争の激戦地でもあったから以前は追悼訪問団も多かっただろうが、今はそれも少なくなっているに違いない。
 ということで当然のことだが、その観光客を受け入れる態勢が必要になる。バスが到着すると沢山の客引きが寄ってくる。そしてホテルに案内する、そこは食堂にもなっていて朝食をとることになる、当然トーストオムレツもある。そして一息つくと観光、その案内や運転手が必要になる。つまり観光業が発達する。その現金収入を求めて、米作りから転職する人がいるだろう。客引き、ガイド、運転手、運転助手、店員、店番、商品運搬、お土産品作り、コックなどなど。それだけ米作りの人は少なくなる。
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もうひとつ当然のことだが、観光に値する棚田は中心の町からは遠く離れている。観光客はそこまで車で出かけなければならない。お客を運ぶ車は、農作業用のそれより大型だし数も増える。当然、道幅を広くしたくなるし、舗装も要求される。だが棚田にしなければならなかった急しゅんな山岳地帯で雨も多い、もともとは人と家畜が歩いていた道、それを広くすることは容易ではない。安易に道幅を広げると崖崩れを招くことになる。案の定そこかしこで工事中、舗装をしたばかりの道にがけ崩れという事態も少なくない。一度起こったがけ崩れを直すのはもうほとんど不可能だ。せっかく道路を修復しても、雨が降るとまた起こる。車窓から対岸の山を眺めると、がけ崩れはあちこちに発生している。道路の修復は止めて山に戻した方がいい、せめて道はもっと狭くした方がいいのではないか、そう思わせてくれる場所もあったりする。

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とはいえ暖かいこの地域の棚田は夢のように美しい。高さやスケールは、インドやネパールあるいは中国にもっと大きいものがあるかもしれないが、緑豊かな周囲に囲まれたそれはとても豊かな感じがする。ちょうど水を張る時期にあたっていて、水田に囲まれた集落を上から眺めていると、空や雲を映して刻々に変化して、湖に浮かんだ桃源郷のようだった。この国がそれを文化の代表として、お札にしかも最高額のそれにデザインしてみせる心情もよくわかる。
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この美しい風景は、世界遺産に認定されたことで、危機遺産になることを招いている。経済の発展が、歴史的文化的な人間の営為を破壊しているとも言える。世界中のあちこち、雲南省でも飛騨でも起こっているのと同じことがここでも起こっている。

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