旅をしている人
田原 晋

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旅の記録, 201308~09 ブラジル

6 サンパウロの汚し屋

 

汚し屋強盗というのをご存知だろうか。一人が背中にインクなんかをかけて汚し、それを一人が見つけて親切に声をかけて服を脱がす手伝いをする。もう一人がバッグを持ってくれたりする。周囲の人は、大変でしたねとは思うが、すでに助けている人がいると、見つめるだけで通り過ぎて行く。世話をしてくれる彼らはグループで、その連携プレーのもとに背広の内ポケットやバッグの中身が抜き取られてしまう~。

 

サンパウロに到着した翌朝の最初に外出した地下鉄で、なんとこちらの背中が汚された。満員の地下鉄を下りてやれやれと歩き出したところで、一人のおっさんが声をかけてきて、背中が汚されていると言う。こちらはとっさに上記の汚し屋強盗と思った。

何しろ、出発前フロントのお兄さんが、背中のリュックを置いて行けと言った。サンパウロは危険だから、リュックは泥棒に会う可能性がある。人ごみでは、背中ではなく前に抱えるように、と心配してくれた。わかっています、気をつけますと、出かけてきたばかりなのだ。

これはヤバいと、後ろに目を配りながら、ビルの壁のある場所まで行って背後の安全を確保した上で、慎重にリュックを降ろし、それを足の間にしっかりとはさんでから、ショルダーは首にかけたまま、ゆっくりとブレザーを脱いだ。なんと、クリーム状のものが背中にべったりとかけられている。おっさんが差し出してくれたティッシュを、ぞんざいに受け取り、ふき取ることにしたが、そんなものでは追いつかない。用意の濡れティッシュを取り出してふき取る。でも、そのおっさんはとても悪いことをする人には見えない。こちらのふき取るのを、ただ心配そうに見ている。サンパウロを代表して、謝っているようにさえ見える。さすがにちょっと申し訳なくなって、大丈夫です、ありがとうと引き取ってもらう。それにしても、汚し屋の仲間のようなメンバーは見えない。地下鉄の人ごみの中で見失ったのだろうか。

ともかく、汚されたけれど、それだけで済んだのは、不幸中の幸いだと思うことにした。ただ、ビルの見学だからと、わざわざブレザーを着てきたことを悔やむ。ともかく、旅の最初に、なんという先制のパンチをくらったものだと、あらためて、これからの旅への注意をカクゴする。むしろ、それを教えてくれたことを感謝することにした。

 

ということで旅がスタートしたのだが、以後、特別なトラブルはなくあちこちを見物して、無事にまたサンパウロに帰って、もう帰国の途。荷物を持ち空港バスが出発する中心部まで、また地下鉄に。もう乗り方もすっかり慣れているのだが、荷物の多いのがちょっと申し訳ない。

到着した車両は心配した通り混んでいる。謝りつつ乗り込んだのだが、なんと目の前に、むき出しのアイスクリームを持った若いお嬢さんが乗って来た。慎重に持っているのはわかるが、電車の中、グラッときたら、簡単に他人の衣服に付きそうだ。隣のおじさんが注意のまなざしを送るが、本人は知らぬ顔。「私の楽しみを奪わないでよ」という感じでいる。

 

どうやら、こちらの最初のトラブルは、この家までのささやかな楽しみのアイスクリーム、それをこちらのブレザーが、食べてしまったのではないか。と考えると、あの時の状況が納得できる。その彼女は謝る前に、自分の楽しみが奪われたことを、悔しく悲しく腹立たしく思ったに違いない。

ということを勉強して、ブラジルを離れたのであります。メデタシ、メデタシ。

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おまけ)ブラジリアのショッピングセンターのカフェで。あまりに可愛いので撮らせてもらった。日本並みの値段のお店、たぶんとてもお金持ちの家族。

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