旅をしている人
田原 晋

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本の旅

2.本の旅・加藤典洋「人類が永遠に続くのではないとしたら」

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 旅の前から読みだして、やっと終わりました、いえ終わってからも随分時間がたちました。途中わからないことも沢山あったけれど、面白かった。というより、世界のこれからについてまるで見えなかったことに、やっと希望というか、あぁそうなっていくのかというひとつの方向を教えていただいた。生きていてよかったというか、これで、まぁ安心して死んでいけるな、と思いました。

(ちょっと脱線。これまで本をいくつも読んできて、誰も言わないけれど、わからないけれど面白いという本があることに気付いています。それでも読んでいいのだというか、そういう、わからないけれど面白いという感想。そのわからないままでも、この本はいいと人にすすめることもまた大切だ、と思うようになりました。世の中、わかりやすさだけが、ほめられているように思いますが、これはあまりいいことではありません。)

 

 さて本の紹介。この地球に限りがあることは、みんな知っています。また未来の人類は地球を捨てて宇宙に移住するのだとは、もう誰も信じることができません。といって、地球の温暖化が進んでいて海水面が高くなるとか、炭酸ガスの濃度が上がって住めなくなる、という意見はあるけれど、ほとんどの人は今のままの生活を続けているし、生き方を突然変更するなんて不可能だと思っています。

 最近亡くなった天野祐吉さんは「成長から成熟へ・さよなら経済大国」という本を書いて、江戸時代に帰ればいいとおっしゃったが、ナルホドとは思うけれど、それはムリだろうと思ってしまいます。IMG_0001

 

 では実際、人間はどうするのだろう。この本は、こちらが知る限り初めて、納得のいく未来を予測してくれました。結論から言えば、それは人間自身の考え方が変わって行くというもの。経済発展とは違う方向へすすんで行くことを、人間自身が望むようになっていく。今はまるで信じられないことだと思うけれど、すでにその兆候があることを示してくれていて、そうかもしれないと思わせてくれます。

 例えば、IT関連でマイクロソフトのジョブス氏は儲けたお金を社会貢献に使っていますが、フェイスブック以後の企業家は、もうお金儲けすら望んでいないようです、などなど。実際、経済発展が何時までも続いたら、困るのはわかっているのですから。

 

 これまで人間は、脳(の中の前頭葉)の進化によって発達発展していくものだと思われていました。未開から文明へ、それは一直線に進化するものだと考えてきました。でも、どうもそうではない、という考え方が出て説得力を持ってきました。なにより、人間には、植物的な部分(自分の意志では、どうにもできない心臓や胃腸の機能)があって、それを認めると、知識の進化(結果としての経済の発展)だけを人間らしい行為と考えるのは誤りであることがわかってきました。それは当然のように、思考に変化を与えていくことになるのだというわけです。

 加藤さんは、それを「することができる」から「することも、しないこともできる」と考える(選ぶ)ようになることだというのですが。

 

 いずれにしろ最後は、地球の自然変化と、人間の変化の追い駆けっこになりそうだけれど、少なくも映画の「猿の惑星」(人間が猿の奴隷になる)や「渚にて」(原爆によって人類がいなくなる、そこにワルチング・マチルダの曲が流れて、映画が終わる)になるという未来よりは、納得のいく世界が描かれています。ともかくこれを読んだことで、久しぶりで高揚した気分になることができました。

 

 そしてまた当方には、三木成夫、見田崇介(社会学)、吉本隆明(アフリカ的)、親鸞や多くの外国の学者さんなどなどの、絶賛されるけれど難解でもうひとつ理解できなかった著作の、すばらしさの意味が、やっとちょっとだけ理解できるような気になれたことも、またうれしく、ありがたいことでした。

 

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